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消化管における内視鏡の歴史は硬性鏡の時代も入れると案外古いものであるが,現在のような軟性鏡を用いた内視鏡診断の歴史に関しては,1950年にガストロカメラGT-1〔オリンパス光学工業(当時)社製〕が世界で初めて胃内撮影に成功したときから始まったと考えられる1).当時の内視鏡開発にかかわった医師や技術者たちの奮闘ぶりは「光る壁画」(吉村 昭・著)2)で知ることができるが,彼らの努力なくして内視鏡診断はもちろん,内視鏡学は始まらなかったことは事実である.当時の内視鏡では内視鏡先端に仕込まれた超小型カメラにフィルムを装填して,腹部を透過してみえる内視鏡の光を頼りにシャッターを切って撮影され,フィルムを現像して初めて画像が得られるものであったと故・丹羽寛文先生から直接お聞きしたことがある.したがって,病変が写っていることは偶然の産物でしかなく,ましてや画面の中央で病変を捉えられることはほとんどなかったことは想像に難くないが,間違いなく“存在診断”の始まりであった.
その後,内視鏡は消化管内を直接のぞき見しながら病変らしきものを捉え,確実に撮影することができるようになり,病変らしきものから組織を採取することで病理診断の裏付けをもって病変と認知でき,“存在診断”がより確かになった.さらに,病変の存在部位,形,大きさ,発赤やひだ集中などといった情報,いわゆる内視鏡所見と病理組織診断結果を対比することで,“存在診断”だけでなく“質的診断”も行われるようになった.1990年代に入ってズーム式拡大内視鏡が登場したことで生体内での病変の表面微細構造(pit pattern)を観察し,これらの所見と固定標本における実体顕微鏡観察下で対比,さらに病理組織像との対比を精力的に研究したことで“質的診断”は飛躍的に向上した3).近年では光学およびデジタル技術を駆使して明瞭かつ高精細な拡大(70〜100倍)や超拡大(約500倍)画像,光の特性を利用して得られた微細血管模様や微細構造の画像から病変に関する情報はより高度となり,これら画像所見をパターン化(分類)することで,生検で組織を得なくても,病理組織診断に迫る“質的診断”が可能となった.そして,各種観察法に関する分類を用いることで,誰でもと言っては過言かもしれないが,容易に“質的診断”が行われるようになってきた.さらに現在では人工知能(AI)にこれらを学習(ディープラーニング)させ,自動診断が可能な状況になりつつある.筆者もこの内視鏡診断の歴史の一部に身を投じてきた一人であり,拡大内視鏡診断の黎明期の激しい抵抗にさらされた時代を経験した者としては,今日の発展をみるに隔世の感や,“悦び”,“歓び”といった感情は禁じ得ないのであるが,一方で一抹の不安もあり,気持ちは複雑である.
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