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病室に呼ばれたとき,彼女は子供のように細い手足に,顔だけ丸々とした異様な状態でベッドに横たわっていた.筋萎縮のために寝返りもままにならない様子である.潰瘍性大腸炎のために2年半の間プレドニン10~60mgを投与し続けた結果の副作用のためである.このままでは社会復帰のチャンスはない.手術しかそのチャンスは与えられないでしょうと大見得を切ったのは若気の至り.外科へ転科しても開腹術に耐えられる状態ではなかった.結局,上行結腸瘻を造設しステロイドを漸減した後に全結腸切除,回腸直腸吻合を行い社会復帰を果たすことができた.この間約3年を要した.その後も何例かステロイド漬けになった例,再燃緩解を繰り返して満足な社会生活ができない例に遭遇し,その生活状況をみる度にこのような例にはもっと早い時期に手術を行うほうが良いと考えるようになってきた.潰瘍性大腸炎は内科的にコントロールできる疾患であることに異論はないが,一度コントロールし難くなって,入退院を繰り返すようになり,正常な社会生活ができなくなった場合には,内科医と外科医が早い時期に手術適応について相談し合って欲しいものである.本人のquality of lifeを考えてあげて欲しい.排便回数が多少増えても様々な仕事に就いて,支障はなく生活できる回腸直腸吻合術がある.わが国ではこの手術の術後成績は極めて良い.再燃しても入院の必要はなく,ステロイド服用の必要もないので,手術を受けた患者は皆もっと早く手術をしてもらえば良かったと述べている.潰瘍性大腸炎の手術適応の決め方とタイミングは確かに難しいが,専門の内科医と外科医とが患者を初めから診るようにすれば,急性期,慢性期を問わずtoo lateということは少なくなるのではないだろうか.彼女は最近,見違えるほど美しくなって結婚した.結婚式で祝辞を述べることができたのは大変嬉しかった.この朗報は同病でdepressiveな患者を励ます種に利用させてもらっている.彼女が赤ん坊を抱いて現れるのはいつのことかと期待しているところである.
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