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「大腸内視鏡治療」の書評原稿の執筆依頼を受けて少し時間がたつ.本書著者工藤進英氏と出版元の担当者の顔を見るたびに執筆の遅延を心で詫びながら,困難さを感じてきた.それは一病理医である筆者が「治療」という臨床医学第一線の仕事の集約点である本書を評価するという,一種の違和を感じていたからである.病理医の立場から独自の書評を執筆せよということであろうが,そして著者工藤氏と筆者の関係から担当者が私を指名したのであろうが,逡巡せざるを得なかったのである.しかしいったん引き受けた仕事である以上お断りするわけにはいかない.
氏は大腸sm癌と大腸Ⅱcの報告を「胃と腸」誌で精力的に行った後,1993年に「早期大腸癌―平坦・陥凹型へのアプローチ」(医学書院)とその英文版「Early Colorectal Cancer―Detection of Depressed Type of Colorectal Carcinoma」(Igaku-Shoin)を世に問うて以来,わが国だけではなく世界においても早期大腸癌をめぐる認識を大きく一変させた代表的人物である.1980年代中葉の“幻の癌”Ⅱcの相次ぐ発見と臨床上の定着は,われわれ消化器病理医の間にある種の混乱と激しい論争を巻き起こすことになった.評者は長らくWHOの消化管腫瘍組織分類の委員長・委員を務めてきたが,細胞異型・構造異型度や浸潤の定義と判定法などをめぐり,欧米の病理医たちとの差を常に感じつづけてきており,国際的なレベルでも論陣をはってきた.とりわけ,大腸については粘膜下層に浸潤して初めて癌と認定するという,それこそ腫瘍学の本質,科学の本質からは程遠い欧米の病理学者との論争に明け暮れてきた感がある.近年ようやく欧米の病理医も消化管腫瘍の組織学的分類の王道に立ち戻って(と念じたい),日本の主張も一部取り入れるかたちで,国際的合意形成がVienna ClassificationやIRACでの会議などを経て進みつつある(まだまだ道のりは遠い).そのような一病理医としてみた場合,本書の著者工藤氏の豊富な早期大腸癌の症例提示は腫瘍病理学に対する貢献という意味でも計り知れないものである.まさに俊才,俊英と言うべきであろうか.
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