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書評「Gastrointestinal Pathology and Its Clinical Implications」
武藤 徹一郎
1
1東京大学第1外科
pp.538
発行日 1992年5月25日
Published Date 1992/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403106869
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大変ユニークな素晴らしい病理の本が出来たものだ.本の表題に“Clinical Implications”と記されているように,本書では実にきめ細かく臨床に気が配られている.著者らも本書を消化器病の教科書の兄弟のように扱ってほしいと序文で述べているが,正にその通り,病理組織の説明のみならず臨床的な事項,標本の取り扱い方,生検の扱い方,意味づけなど,まことに痒い所に手の届く説明がしてある.患者の取り扱い方に多くの紙面が割かれているのも病理の教科書としては異例のことである.病理医はこういう言葉を使ってはいけない,内視鏡医と病理医の間ではこのようなルールが守られねばならない,など明日から役立つ実際的な注意も忘れられてはいない.疾患によっては病理医の役割という記述があったり,炎症性疾患では生検の読み方が問題集のごとく症例呈示されているのもユニークである.
学会で論争のある点も教科書的にまとめるのではなく,論争点を明確に記したうえで著者らの解釈を述べているのも面白い.わが国のように著者が一方的な解釈を述べるにとどまるのと違って,読者はよりよく問題点の実態を理解することができるであろう.例えば,潰瘍性大腸炎に発生した腺腫とdysplasiaの違い,腺腫のmisplacement内に生じた癌と浸潤癌との違い,de novo癌の論争についてなど,まことにホットな問題についてもきちんと説明されている.
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