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19世紀後半から20世紀初めになって,ようやく人類は膵臓疾患を認識し膵臓の構造と機能を解明しはじめた.20世紀を3期に分けてみると,膵臓外科は初めの1/3世紀が揺藍期であり,次の1/3世紀が青年期で膵臓の良性・悪性疾患に対し積極的に外科的治療を試み,現在を含む1/3世紀である成人期の基礎を作った時期であった.20世紀もあと数年となった今日,膵臓外科医として衆目の一致する齋藤洋一,中山和道,高田忠敬の3教授が編集された本書は,約90人におよぶ本邦の膵臓病を専攻する医師により執筆されたもので,執筆者の大半は外科医であるが,少数ながら高名な病理学者や内科医もそれぞれ重要なテーマについて担当されている.本書が研修医および一般病院の若手勤務医を主たる対象として編集されたものとはいえ,まことに成人期の膵臓外科の集大成ということができる.
本書は“外科に必要な膵臓の構造と生理機能”にはじまる.この章には,膵臓の発生と異常,解剖と微細構造のほか,内外分泌について触れ,更に膵臓と臓器相関が述べられている.第Ⅱ章は“膵臓疾患における概念と規約の解説”であり,急性膵炎の重症度判定基準,慢性膵炎の臨床診断基準,膵癌取扱い規約が解説され,わが国で発見され追究されてきた粘液産生膵癌が詳述され,膵管癒合不全や膵胆管合流異常についても述べられている.第Ⅲ章は“膵臓外科における形態学的診断法”であり,近時とみに進歩発達を遂げた画像診断法による鑑別や癌進展度の診断について詳述されており,細胞診や組織診にまで言及している.第Ⅳ章は“外科に必要な膵機能検査”であり,膵外・内分泌機能検査について述べられているが,腫瘍マーカーについても記述されている,第Ⅴ章は“術前後・術中管理”で,術前・術中・術後管理のほかに退院後の管理について,更に膵手術と栄養管理にまで論述されている.第Ⅵ章は"外科的治療を必要とする膵疾患の治療方針"と題し,膵外傷から膵液瘻,急性・慢性膵炎,膵嚢胞,膵癌,膵内分泌腫瘍に至るまで治療方針が記載されている.
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