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胃の腺構造は周知のごとく,噴門腺(cardiac gland),胃底腺(fundic gland),幽門腺(pyloric gland)から成る.噴門腺はその範囲も狭く,機能的には幽門腺と類似し,逆萎縮という現象を除けば,大きなトピックとはなりえない.したがって,本号の主題「腺領域からみた胃病変」は主として胃底腺と幽門腺を取り扱うこととなる.胃底腺は固有胃腺と呼ばれるように,胃の機能を考えるうえで最も重要なもので,被蓋上皮細胞と,増殖細胞,壁細胞(または酸分泌細胞),主細胞(または酵素分泌細胞),副細胞,内分泌細胞などから成る.壁細胞からは塩酸,主細胞からはペプシノーゲンが分泌され,内分泌細胞にはセロトニンを分泌するEC細胞(enterochromaffin cell),ECL細胞(EC-like cell)がある.一方,幽門腺は被蓋上皮細胞あるいは銀親和細胞で構成されている.幽門腺の特徴としてはガストリンを分泌するG細胞,ソマトスタチンを分泌するD細胞が豊富に存在することである.このように胃には機能を異にする腺が共存しており,それぞれの腺を背景として種々の疾患が発生してくる.胃底腺と幽門腺の境界部は徐々に移行し,中間帯を形づくる.中村は,腸上皮化生のない胃底腺粘膜を境界づける線をF境界線(F-line),巣状に出現する胃底腺粘膜を境界づける線をf境界線(f-line)を名づけている.中間帯の範囲は,このF-lineとf-lineの間とすることが普通となっている.この腺境界は周知のごとく,徐々に口側に移行していくが,これは固有胃腺である胃底腺の萎縮性変化が原因である.すなわち円形細胞の浸潤によって始まる慢性胃炎の変化は,主細胞や壁細胞などの胃固有腺の減少ないしは消失,粘液細胞の増加,更には胃底腺そのものの絶対数の減少へと進行する.粘液細胞は幽門腺の腺細胞やBrunner腺の腺細胞などと形態的に極めて類似しており,偽幽門腺と呼ばれる.慢性胃炎の結果,腸上皮化生,過形成性の変化などが起こってくることはよく知られた事実である.幽門腺領域に存在する多くの病変は萎縮性変化,殊に腸上皮化生と密接に関係することが知られている.
腺領域と胃病変に関する研究はこれまでも精力的に行われてきており,以下に述べるような事実が積み重ねられてきた.
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