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多くの病院で,病院情報システムの導入が進められている.コンピュータが好きだったというだけで,ある日突然,病院情報システムの導入担当者に命じられ,何をどのように検討すればよいのか試行錯誤を迫られている人が多い.そのような人たちは,数社の大手コンピュータ企業の担当者に話を聞いて,あとは提案をさせればよいと,始めのうちは思っている.しかしそのうち,どうも様子が違うことに気づく.企業の担当者の言うことと院内のいろいろな人の希望することが嚙み合わないのである.何がどうなっているのかわからないが,見積もり額は目が飛び出るほど高い.院内の要望もばらばらでわがままでまとめようがない.ストレスばかりの毎日が待ち受けている.そんな途方に暮れる人々のためのすばらしい本が出版された.
著者の小山先生は,国立がんセンター中央病院新棟の病院情報システムをその企画立案段階から担当され,平成10年に先端的な病院情報システムを稼動させた経験をもとに,この本を執筆された.本書は,13章から成るが,技術書によくみられるような情報システム技術の一般的なことにはほとんど触れていない.病院情報システムの導入仕様を策定し,どのように院内の各部門の要望をとりまとめ,専門の情報部門のない病院がいかに大きな情報システムを安定して稼動させるか,といった事柄に大部分の頁を割いているのが大きな特徴である.これは,病院情報システムを導入する担当者にとって最も重要なのは,技術知識ではなくて,いかに組織のニーズをまとめバランスのとれた仕様を策定し,それをシステムに反映させるかというシステム組織学とでもいう領域である,という著者の信念の現れであろう.そして,病院情報システムの導入とはまさにそのとおりである.
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