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「EBM時代の症例報告」というタイトルから,EBMと症例報告を無理やり結びつけたEBM便乗本かもしれない,と反射的に感じてしまった.しかし,著者の経歴はあのEBM総本山のカナダMcMaster大学教授である.何かがありそうだ,という好奇心で本書を読みすすめるうちに,“エビデンスとは大規模臨床試験からのみ得られるものではない,症例報告によってしか得られないものもある”という事実を忘れていたことに気づいた.私のような読者が沢山いることを想定して,著者は全編を通してメッセージを送り続けている.“臨床家ならば真剣な症例報告者であれ,エビデンスとなりうる症例報告を行え,その方法は本書に示してあるから心配するな”と.
なんといっても本書の特徴は,症例報告の方法が57頁にわたって割かれていることであろう.特に,学術論文としての症例報告の方法について十分な説明が行われている.症例報告の理由や動機,要約,緒言,症例提示,考察という構成要素の,それぞれの意義と記載するべきことについての指針が示されており,ここを利用するだけでも症例報告の内容が格段に良くなるような気がしてくる.初めて学会報告を担当する人には強くお勧めする.幸いにも,著者は学会報告や症例記述に迫られた医師が途中の章から読むことを想定して記載している.また,著者の厳密な要求基準を満たした実際の論文(食道食物嵌頓における心臓虚血を示唆する心電図変化)を全編提示していることは本書のユニークな点である.しかも,その論文の症例報告における優れた要素についての注釈が読者の理解を助けてくれる.症例報告を発表した経験のない者でも,著者の提示した方法をなぞらえることで質の高い報告を作れそうな気持ちにしてくれる.学会報告や論文執筆に限らず,退院時サマリーを書く際にも参考にするべきヒントがたくさん含まれていることは,ありがたい.
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