--------------------
書評「EBM時代の症例報告」
中山 健夫
1
1京都大学大学院医学研究科
pp.1144
発行日 2002年8月25日
Published Date 2002/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403104521
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
このたびMilos Jenicek教授による「Clinical Case Reporting in Evidence-based Medicine」第2版の邦訳「EBM時代の症例報告」が西信雄先生・川村孝教授の手によって邦訳,刊行されました.Jenicek教授はモントリオール大学,マクマスター大,マギル大学というカナダを代表する名門大学で教授を務められた著名な臨床疫学者であり,その前著は「疫学現代医学の論理」(名古屋大学出版会〉として邦訳版も出版され好評を博しています.本書はEBMの到達点を膨大な文献レビューにより鮮やかに俯瞰すると共に,「症例報告」の方法論を捉え直す視点から果敢な再構成に挑んだ意欲作です.約200頁の本書で引用されている文献は実に500編を超え,臨床試験やメタ分析はもちろん,1人N回試験,対照なしの症例対照研究,質的研究,遺伝子疫学,さらには法廷におけるエビデンスの役割まで言及され,その視野の広さとバランスの良い問題点の整理には感嘆するばかりです.これまで「症例報告」が,これほど立体的な枠組みの中で記述の対象となったことを寡聞にして知りません.まさに“宇宙の中にはわれわれだけがいるのではない”(本書44頁)のでしょう.
本書は,既にEBMを実践し,量的な情報と質的な情報の両方への目配りの大切さを再確認されつつある読者にとって特に有用と思われます.EBMにおける症例報告という“ミッシング・リング”は,本書によって確実にその姿を現しつつあるようです.
Copyright © 2002, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.