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3月号に引き続き内視鏡的粘膜切除術(ER)の特集号であるが,このシリーズを企画した最大のねらいは,ERが外科的切除にとって代わりうるか?という1点にあると言っても過言ではなく,その意味で本号ではERの治療学上の評価を問うことになったのである.主題論文を読むかぎり,その評価は肯定的であり,内視鏡が早期胃癌を発見する時代から治療する時代へと変わったことはもはや疑問の余地がないようである.しかし,現実をみると早期胃癌の外科的切除がある部分でもう不要であるということを,誰もが納得しているわけではない.その最大の理由は“外科的切除は完全であるのに対しERは不完全である”という漠とした感覚であろうと思われる.しかし,外科的治療は決して完全ではないし合併症もついて回る.それでも外科的治療を選択させる誘因は何かと言えば,ERの技術的な完成度の問題もさることながら,局所治療そのものに対する不安感,逆に言えば“もう悪い胃袋はなくなった”という胃切除に伴う安心感なのかもしれない.ERがこのような患者の感覚的な問題までも解決しようとすれば,対象とする粘膜内癌の予後が極めて良好なために,莫大な症例数と10年以上といった極めて長期間のfollow-up dataが必要となり,現時点でこの種の評価を下すことは不可能である.現在われわれが問われているのは,厳格に精度管理されたprospective studyとしてERに取り組む姿勢ではないかと思われる.ちょうど,内視鏡的止血法によって出血患者の手術件数を減少させたように,将来的には早期胃癌に外科手術を不要とする時代が来るであろう.それを確実にしかも速やかに実現するには,質の良い成績を積み上げていくこと以外にないのである.この意味で3号,4号の特集号が大きな道しるべとなってくれることを期待して稿を終えたい.
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