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Behçet病(Behçet's disease ; BD)の特殊病型である腸管BDは,腸管に潰瘍性病変を有し,「1987年厚生省調査研究班ベーチェット病診断基準」(以下,“研究班診断基準”)の完全型と不全型に当てはまるものを指す.一方,腸管(主に回盲部)にBD類似の潰瘍性病変を有し,完全型や不全型の条件を満たさないものは一般に単純性潰瘍(simple ulcer ; SU)と呼ばれ,BDから区別されている.腸管に前述の特徴的潰瘍を有し,BDの主症状の1つである“口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍”のみを合併する例は,“研究班診断基準”からみれば“腸管Behçet病の疑い”とされる.しかし,このような症例を実際の臨床面でどのように取り扱うかについては,腸管BDに属すべきという意見や,SUとして扱うべきという意見があり,腸管BDとの異同に関して一定の見解は得られていない.この問題点を臨床的に解明することは,今回の企画の大きな目的である.
村野論文では,SU症例を口腔内アフタ合併例と,非合併例に分けて解析し,口腔内アフタ合併例は非合併例に比して難治性で再発率も高く,腸管BD病と同様の病態を呈すると報告している.高木論文では,口腔内アフタ合併例をBD群,非合併例を非BD群と分けて解析した結果,非BD群はBD群に比して潰瘍が回盲部に限局する傾向を有し,手術率や再手術率が高いと報告している.村野論文と高木論文では口腔内アフタ非合併例の難治性の結果が異なっている.しかし,いずれにしても,両論文ともBDの主症状の1つである口腔内アフタ合併例は,むしろ腸管BDとして,非合併例はSUとして扱うことを示唆している.また,両論文とも,症例の長期経過の検討において,BD群の中では経過中に病型の進展(変化)を認めるものがあったが,口腔内アフタ非合併例のなかでBDに移行したものは皆無であったとしている.小腸病変のあり方においても,口腔内アフタ合併例と非合併例は異なっているようである.これに関して,松本論文ではカプセル内視鏡やバルーン内視鏡を用いて検討している.それによれば,非合併例(松本論文中では,“狭義の単純性潰瘍”として類別)では潰瘍性病変は主として回盲部に限局しているが,口腔内アフタ合併例(“Behçet疑い”として類別)では“不全型Behçet病”と同様に回盲部以外の小腸にも病変がみられ,非合併例は合併例やBD病とは異なる病態を呈していることがわかる.また,腸管BD,SUと他疾患の鑑別も重要であり,病理学的立場(田中論文)や臨床的立場(小林論文,大川論文)から鑑別点がそれぞれ述べられている.
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