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肝癌に対するTAEの合併症について溶血性尿毒症症候群(HUS),肝梗塞についての報告は極めて少ない.本症例はTAEを施行後,重篤なHUS,肝梗塞を引き起こし,ハプトグロブリン療法,血液透析などで改善した肝癌の症例である.
症例は60歳男性.B型肝硬変に合併したS7〜8の約6cmの肝癌で,TAEを施行.門脈はintact.A-Pshunt(-),ADM20mg,MMC10mg,リピオドール®10mlを動注し,TAEを行った.2日後より39℃の発熱,黒褐色尿(Hb尿)(図1),著明な貧血(Hb6.0g/dl),LDH高値,血小板減少(2.4万),急性腎不全(BUN86mg/dl,クレアチニン5.2mg/dl)などの状態を呈し,いわゆるHUSの病態に陥った.ハプトグロブリン療法と血液透析により,溶血,血小板,腎不全などすべて回復した.CTではS7〜8の腫瘍への著明なリピオドール®の集積と肝梗塞(図2)の所見が認められた.肝臓は肝動脈と門脈の二重支配を受けているため,肝梗塞は非常に発生しにくく,肝動脈の塞栓では発生せず,全身的あるいは局所的な酸素欠之をきたす要因(ショック,DIC,炎症など)が加われば生じる.一方HUSは,急性腎不全,溶血性貧血,血小板減少を主徴とする比較的稀な疾患であるが,MMCによって起こることも知られている.その機序としてMMCの直接的および免疫学的複合物沈着による血管内皮障害,血流障害が生じ血栓を形成したり,血管透過性の亢進,血液凝固異常などが考えられている.本剤では①リンパ球幼若化試験でMMC(+)ADM(-)で,まずMMCにより著明な溶血が起こり,それにfree Hb,微小血栓,DICなどが加わり,局所的に酸素欠乏を生じたか.②逆に,まず肝梗塞が起こり大量の壊死物質が生じ,それに微小血栓などが加わりHUSが併発したか,③リピオドール®が門脈内に逆流したことにより,動脈,門脈とも閉塞されたか,いずれの可能性も考えられるが詳細は不明である.TAEやMMC投与後に本例のような臨床症状を認めた場合は,HUSや肝梗塞なども考慮に入れる必要があると思われる.幸いにも救命し得たが,顔面蒼白になった症例である.
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