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最近,患者のなかで高齢者の占める割合が増えてきている.受診時には病気はかなり進行している例が多く,治療に苦慮する.入院の原因となった病気が治っても,検査をすすめているうちに他の病気がみつかり,入院期間がずるずるのび,退院できるときには,家族は,老人のいない生活に慣れ,老人の受け入れが難しくなる例がある.したがって高齢者を診るとき,どこまで検査の範囲を広げるかに頭を悩ますことが多い.
以前勤めていた病院では,ときどき他科からの診療の依頼があった.大腿骨頸部骨折で整形に入院し,人工骨頭置換術を受け,リハビリ中で,骨粗鬆症に対しサケカルシトニン10U2回/週,イプリフラボン600mg,乳酸カルシウム3g,カルシトリオール0.75mgが処方され,2カ月後には食欲不振とBP180/90mmHgの高血圧が続く86歳の女性(入院時は正常血圧)が循環器科へ診察依頼となった.同僚の西野Drが診察したが,一度に血算,TP,Alb,T—Bil,ChE,GOT,GPT,ACP,LDH,γ—GTP,CPK,BUN,Cr,UA,T—Chol,TG,HDL,Na,K,Cl,Ca,P,血沈,CRP,RAの検査をオーダーしていた.一度にオーダーの出しすぎではないかと思ったが,結果は見事なものだった.BUN/Cr60.6/3.4,Ca13.6mg/dl(整形入院時のBUN/Crは20.1/0.7でCaは測っていなかった).ここまで出れば答は簡単で,Ca製剤,活性型Vit Dにより高Ca血症をきたし,このため多尿,食欲不振が起こり,脱水と腎へのmicrocalciticationによる腎障害,高血圧を引き起こしたと考えられる.この症例は幸いに輸液と内服中止によって1カ月でほぼ正常化し,その後腎もCaも正常のままである.活性型Vit Dへの感受性がたまたま非常に高かったということだと思うが,骨粗鬆症治療の通常量で起こっており,高齢者の骨粗鬆症の治療がますます増える傾向を考えると,このような例が増えてくるものと思われる.骨粗鬆症の治療の際には,漫然と投与せず,自覚症状に注意し,血清Caのモニタリングを頻回に行う必要があると思われた症例である.
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