iatrosの壺
過量と寡量
村岡 重信
1
1有吉病院内科
pp.173
発行日 1996年11月30日
Published Date 1996/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402905510
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本号でも薬剤の副作用につき注意の喚起がなされるはずです.薬剤は常に生命,身体の安全を害する危険性を内在し,安易な処方によって不幸な転帰をとる場合があり,逆に悪性症候群のように急激な中断で死亡することさえあって,慎重な処方が必要です.前医の処方が既知とは限らず,時には患者さん自身が知らなかったり,もしくは隠す場合さえあります.
〈症例1〉常用薬を忘れて当地を訪れたある名士.大酒家でなく栄養良.手がふるえ,その後全身痙攣をくり繰した.痙攣をコントロールしたが幻視,眼球外転,構音障害,軽度の項部硬直,ややbriskな深部反射があり,麻痺なし.極めて興奮し,一睡もせず天井の虫煙(幻視)を見つめて暴れていた.血液,髄液,画像などで軽度高血糖以外異常なし.Wernicke脳症,脳血管障害,限局性脳炎などを疑い,サイアミン大量静注などしたが無効.翌日,長期間の大量バルビタール内服歴,生来の斜視が判明.最適量バルビタールを用い神経学的所見は急速に正常化した.薬物の禁断症状を思い出していたら急性バルビタール禁断症候群も考えたかもしれないが,謹厳な人格者が睡眠薬常習とは思わなかった.
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