臨床医のための分子生物学・3
「人間の起源」の分子生物学
長野 敬
1
1自治医科大学・生物学教室
pp.1308-1312
発行日 1992年7月10日
Published Date 1992/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402901608
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●「人間の起源」の神話と科学
人間はいつも人間自身の起源に多大の関心をもってきた.どの民族も自分たちの創造神話をもっている.エスキモーのアカパグ族では,創造主となったのは聖なる大カラスで,最初のものは失敗作であり,これは谷底にポイ捨てして,次にようやく人間ができたという.捨てられた試作品はのちに世の中で悪さをする悪霊になった.儀式ばって原始の海をかきまわすイザナギ,イザナミとか,アダムを眠らせておいて肋骨を引き抜く神様よりも,あっけらかんとしていて好感がもてる.
神話は次第に科学に席をゆずる.というよりも,むしろ別世界に棲みわけるようになる.しかし,米国のファンダメンタリズムのように,聖書の7日間というのはまさに7日であり,われわれは聖なる記述のバーゲン・セールはしないと頑張る向きも時にはある.1981年にアーカンソー州では,(仮説であり,それゆえ否定することのできる)ダーウィンの進化論と,(仮説であり,それゆえ科学の一部といえる)創造説話を,高校の理科の内容としてともに享受すること,そういう平衡取扱い法案が州法として成立した(図1).
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