書評
—神田善伸 著—みんなのEBMと臨床研究
能登 洋
1,2
1聖路加国際病院内分泌代謝科
2東京医科歯科大学医学部
pp.227
発行日 2017年2月10日
Published Date 2017/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402224591
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私がEBM(Evidence-Based Medicine)に最初に出合ったのは20年あまり前にアメリカで臨床研修を積んだときであった.診療現場においてエビデンスの生きた読み方・使い方を教わったが,エビデンスに振り回されるのではなく,「EBMは患者に始まり患者に帰着する」,「数値は臨床的枠組みのなかで初めて意味を持つ」ことをたたきこまれた.帰国してからはEBMの基本となるエビデンスの読み方・使い方や,臨床と統計の親密さを平易な切り口で解説してきている(註1).近年では日本でもEBMは着々と普及してきており,日本からのエビデンス発信も増えてきた.しかしその反面,日本の統計学教育は依然として貧であるため,エビデンスが商業主義や政治的策略に濫用されてきているのも現実で,エビデンスに翻弄されるリスクも大きくなってきている.「はじめにエビデンスあり」と言わんばかりのネット情報や薬剤宣伝,さらには権威ある医師がその風潮を高めている現実には閉口する.
このような現実において,本来のEBMや臨床研究の本質を見直し,基本に立ち帰ることを促す点で本著は臨床的価値が高い.EBMの総論解説に始まり,臨床研究の実際,統計解析,論文作成という順で展開し,誰でもすぐに実用できるよう構成には教育的視点からの配慮がなされている.特記すべきことは,序文にもあるように「EBMも臨床研究も,入り口は診療現場のクリニカルクエスチョン」であることが一貫して述べられていることである.「エビデンス商法」に騙されないよう,一見難解な非劣性試験や多重比較についての明快な解説項もあり,臨床の現場にいる医師にとって有用な解説が詰まっている.
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