天地人
漢語雑感
月
pp.2099
発行日 1982年11月10日
Published Date 1982/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402218031
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必要があってelectrophoresisの訳語「電気泳動」の起原を調べようとしたことがある.現役の研究者としてはこのような低徊趣味に時間を費したくないのだが意外と難問である.辞典で調べても泳動は昔の漢語にはない.調べた範囲では昭和10年(1935)刊,鮫島実三郎著,岩波全書「化学通論」に出ているのが一番古い.ただし最初かどうかは保証しかねる.Tiseliusの電気泳動法の報告は1937年であるが,現象そのものはもっと前から記述されている.ギリシャ語phoraは「運び動く」という意味であるから泳動とは面白い語を選んだものだと思う.
「科学」はscienceの訳語として考案され,日本語として定着し,それが中国に入って中国語としても使われている言葉である.明治時代に西欧文明をとり入れるために考案された「新漢語」は現在の日本語の中に違和感なく普及浸透している.そしてそれらが中国人により中国へ輸入されて定着しているという.中国でもいろいろ訳語をくふうした人がいたが,日本人がくふうした新漢語の方が漢語文化圏の中では通用しているのである.これは鈴木修次著「日本漢語と中国」中央公論社(1981)の受け売りであるが,その中には真理,権利,義務,論理,命題,演繹,帰納,宗教,自由などが含まれる.これらの語は漢和辞典を引けばなるほど出典はあげられているが,それは現代的意味の語として出ているのではない.
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