今月の主題 実地医に必要な臨床検査のベース
薬剤による影響
薬剤と臨床検査
林 康之
1
Yasuyuki Hayashi
1
1順天堂大学医学部・臨床病理
pp.1440-1443
発行日 1982年8月10日
Published Date 1982/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402217887
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一般的にいって,薬剤投与と臨床検査とは目的とするところがまったく異なる.医療行為のうち,前者は治療手段であり,後者は診断である.そして双方の接点となるのは,治療効果を検査値により客観的に判断しようとする考え方を当然とする現医療の思考法にある.
薬剤は診断にもとづき適切なものを適当量与えられたとして,その結果の確認は病態の推移にともなう自他覚症状と検査値の変動を見守ることで行われる.自他覚症状の経過は,もっぱら観察者と患者の主観的判断による.そして検査値のみが客観的指標を与えるものとして,その特異性と技術的信頼度をおり込んだうえで重視される.検査値の変動が非常によく病態変動に対応するものである限り,以上の考え方でなんら問題はない.問題は検査値の変動因子に,病態変動のほか分析技術上の変動要因が数多くみられることである.そして,投与する治療薬剤自体が変動因子としてかなりの比重をもつことが明らかにされ始めた.とくに近年の化学療法剤をはじめとする各種新薬の開発は,投与による副作用の検出に検査値を利用するようになり,薬剤の試料中混入による検査値の変動も問題になり始めた.もちろん,このような問題提起のうらには,臨床検査値自体の分析精度の向上と,各種化学療法剤のように大量投与あるいは持続投与を必要とし,かつ副作用の発現と治療域値とを接近させて使用する薬剤の増加したことを考えねばならない.
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