新しい栄養学の知識
蛋白質の特異動的作用
林 伸一
1
Shin-ichi HAYASHI
1
1慈恵医科大学・栄養学
pp.442-444
発行日 1980年3月10日
Published Date 1980/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402216459
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はじめに
食事をすると,まもなく身体が暖かくなり,夏だと汗が出てきたりすることは,誰でも体験して知っている.このような,食事によるエネルギー代謝(熱産生)の亢進は,今世紀の初め頃,ドイツの生理学者Max Rubnerによって,特異動的作用(specific dynamic action)と名づけられた.しかし,そのずっと以前に,Lavoisierが,すでにこの現象を見だしている.燃焼が酸化反応であることを発見し,呼吸と燃焼が本質的に同じ現象であることを洞察したLavoisierは化学の父とも栄養学の父とも呼ばれるが,彼が1785年に炭酸ガスの発見者であるBlackに宛てて出した手紙の中で,人間の酸素消費量は安静状態で最も少なく,寒冷,食事,および運動によって増加することを報告しているのである.つまり,すでに彼はエネルギー代謝の基本的要因を定量的に把握していたわけで,ただ驚きのほかはない.
このように古くから知られ,また多くの研究がなされたにもかかわらず,特異動的作用の原因は,まだ解明されたとはいえない.また,概念の混乱もしばしば見受けられる.ここでは,最近の知見をふまえ,特異動的作用の本態と機序について,私の考えをまとめてみたい.不備な点も多くあると思うが,大方のご批判をいただければ幸せである.
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