今月の主題 心膜疾患の臨床
心膜疾患の主な病型
心タンポナーデ
鈴木 茂
1
,
新井 達太
2
Shigeru SUZUKI
1
,
Tatsuta ARAI
2
1東京慈恵会医科大学・心臓外科
2東京慈恵会医科大学
pp.30-32
発行日 1980年1月10日
Published Date 1980/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402216360
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定義・血行動態
心タンポナーデとは,心膜液,血液などの貯留によりその心膜腔内圧が上昇し,このために心臓が圧迫されて正常の心拍出量を維持できなくなった病態をいう1).正常でも心膜腔内には20〜60 mlの心膜液があり2),その内圧は大気圧より数mmHg低く,また胸腔内圧とほぼ同等である.しかし,何らかの原因で心膜腔内圧が上昇すると,図1のごとく心臓,とくに心室の拡張が制限され心室の拡張終期容量は減少する.一方,収縮期容量は不変であるために1回拍出量の減少を生じる.しかし,代償機転として心拍数の増加などがおこり,心拍出量は正常に維持されようとする.しかし,さらに心膜腔内圧が上昇して10mmHg以上にもなると代償不全を招来し,急激に心拍出量の低下,すなわち動脈圧の低下を生じる.この代償不全に陥った病態が心タンポナーデである1).
したがって,重要なことは,心タンポナーデになるか否かは貯留した心膜液の量の多少ではなく,心膜腔内圧の上昇程度による点である.すなわち炎症性心膜炎などでゆっくり心膜液が貯留するときは1000ml貯留しても,心膜がゆっくり伸展されるために心膜腔内圧の上昇が軽微で心タンポナーデに到らないこともあるし,また反対に外傷などで急激に心膜液が貯留するときは150ml前後の量でも心膜腔内圧が著明に上昇し心タンポナーデになる.
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