天地人
レッテルを貼るな
地
pp.1119
発行日 1979年7月10日
Published Date 1979/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402215984
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夏樹静子の小説"遥かな坂"は,週刊誌の連載も終わらぬうちにテレビでも放映され,社会的に多くの関心を集めている.ある殺人事件をめぐる推理小説ではあるが,学歴の問題,受験地獄の様相を描いている点が人気の本になっているらしい.事件は終戦直後の混乱期に東大を卒業したと学歴を詐称した男が,大手スーパーの事業部長にまで出世するが,その秘密を握られたために二人までも殺害してしまうというのである.有能な人間でも,立派な学歴なしには出世しにくい現状社会を批判し,それ故にこそますます受験地獄がエスカレートすることを示唆している.たしかに学歴はその人を評価する重要な指標になりうるし,学閥がその人の能力に有効に作用することがあることは誰しも認めるところであろう.しかし,日本ではあまりにも学歴でその人物にレッテルを貼ることが多いために,受験戦争のみが熾烈になっていると思われる.
レッテルは元来はオランダ語で商標の意味であるというが,広辞苑にもあるように「或る人物や物事に対する特定の評価」にも用いられている.商標としてのレッテルに対する信用は,わが国ではとくに根強いように思われる.若い女性はフランスやイタリアの有名ブランドさえついていれば,これみよがしに身につけている.デパートでは服飾の世界的デザイナーの名前を,タオルからスリッパなど日用の雑貨品にまで模様にして売り出している.レッテルに対する過信が本当の品物への評価を失わせているのであろう.
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