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登場人物
A 大学教師:教育関連学部で社会学を教えている。50歳代,男性。
B 大学生:教育関連学部の4年生。20歳代,男性。
はじめに
A 今回は,大村英昭さんの著書『非行のリアリティ』を取り上げましょう。2002年に世界思想社から刊行されています。大村さんは,犯罪社会学,宗教社会学の分野で活躍している社会学者です。1942年生まれで,現在,関西学院大学の教授をされています。
B 最近,書かれた本なのですね。
A ただ内容から見ると,簡単にはそう言い切れないところがあります。1980年に大村さんが同じ出版社から刊行した『非行の社会学』がこの本の原型です。その後1989年に改訂版が出され,今回さらにヴァージョンアップしました。記述や統計資料が改訂されたり,2001年に新しく書かれた論文が載ったりしています。
B なぜ,この本を取り上げるのですか?
A 前回,スウェーデンの中学校の教科書を調べたときに,「レッテル貼り」の話が出ました。スウェーデンで「レッテル貼り」についての社会学理論を中学校で教えていることに驚いたわけです。この「レッテル貼り」についての社会学理論を,研究者の間ではラベリング論といっていますが,今回,この理論について少し詳しく紹介したいと思いました。日本語で,ラベリング論を一番わかりやすく説明しているのがこの本なので,取り上げたというわけです。
B どういった特徴をもった本なのですか?
A ラベリング論を中心に,非行の社会学的理論が手際よく説明されています。犯罪データの読み方や劇場犯罪論,いじめ論なども扱われています。どの部分も,難解な記述にならないような工夫が加えられていて,おもしろく読める本です。
1980年当時,僕は大学院生だったのですが,ゼミでこの本の前身『非行の社会学』を読んで大変影響を受けました。大学の教員になってからも,大学院のゼミなどで,何度か使わせてもらいました。少年非行について,それまでの理論とは全く違う考え方を提示した本で,若い社会学研究者に与えたインパクトはとても大きかったのです。20年以上にわたって多くの人に読み継がれたロングセラーが,書名を変え,内容も一新して再登場したというわけです。
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