医師の眼・患者の眼
「酒は焼酎,世は情」—民生病院・その2
松岡 健平
1
1済生会中央病院内科
pp.1386-1388
発行日 1978年9月10日
Published Date 1978/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402208044
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戸田橋の旦那,氏名・年齢不詳
「さて急患室はどうなっているだろう」とチーフレジデントのボッカは重い腰を上げる.「重い」というのも先ほど"ねずみ男"を守衛さんと3人の看護婦さんで廊下で大立ち廻りの末,押さえつけて寝かせたばかりだったからである."ねずみ男"氏は40歳の労務者で,毎日焼酎5合を愛飲していたのだから,入院後3〜4日するとやたらと「ねずみ,ねずみ」と口走りながら部屋の中を熊のように動きまわっていたからつけられた仇名で,Delirium tremensの一病期として大暴れしたのである.Diazepam(セルシン)10mgの静注で一応すやすや眠った.頭部外傷もないし,呼吸器感染もない,水分収納もうまく行っている.ボッカは看護婦に30分ごとのバイタルサインのチェックを命じて急患室へ急いだ.
廊下を小走りに急いでいると,救急室のほうから男のウメキ声に混じってレジデントのケロヨンが救急車のクルーと何かやり合っているのが聞こえる.酒の匂いをただよわせながら,口や鼻から血をふいている患者を横にケロヨンはどなっている.
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