医師の眼・患者の眼
「済生の道」—民生病院・その1
松岡 健平
1
1済生会中央病院内科
pp.1246-1248
発行日 1978年8月10日
Published Date 1978/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402208011
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怒鳴って去った酔客はアルコール性低血糖
暮も押しつまったある日,民生病院の朝は何か後味の悪い結末より始まった.昨夜入院した有楽町駅のトイレで倒れていた酔客が高名な小説家だとわかった.酔いから醒めるや,「オレをこんなところに収容しやがって」と怒鳴り散らし,医師や看護婦にさんざんいやみをいったあげく,一文も支払わないで職員の制止をふり切って立ち去ってしまった.
彼を発見した警官は,鳥居坂にある酔っ払い収容所に連れていくのは不適当だと判断し,パトカーで済生会中央病院に隣接する民生病院に運んできた.なるほど急患室では深い昏睡で瞳孔不同があり,バビンスキー反射まで出ていた.ところが5%GIN. S(5%ブドウ糖生食水)を点滴しながら,頭部,胸部のX線検査を終え,病棟ヘストレッチャーで運んでいたら,急に目を醒まして「ここはどこだ」といいだしたのだ.レジデントのケロヨンは急患室で血糖,IRIなどの採血をしておかなかったことを歯がみして悔んだ.文献ではみていたが,これがアルコール性低血糖だった.翌朝,その男がいないのを知ってケロヨンは地団駄を踏んだ.「よくなって自分勝手に退院したんだから,いいじゃないか,いずれまた来るかも知れないがね.それよりぐずぐずしないで,ICUの冷凍人間を診てこいよ,乳酸アシドーシスを起こしている.pHは7をきってるかも知れないよ」とチーフレジデントのポッカはケロヨンの気をそらせた.
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