医師の眼・患者の眼
ラスト・ライト(病者の秘蹟)
松岡 健平
1
1済生会中央病院内科
pp.1085-1087
発行日 1978年7月10日
Published Date 1978/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402207970
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彼此の違い
アメリカの病院でインターンを始めて2日目か3日目の夜だった.婦人科の術後患者が胸痛を起こしたので病棟に急行した.夜勤専門の婦長が,年老いた患者の血圧を測りながら,「ドクター!ファーザーを呼びましょうか」という.「へえー,こんなお婆さんのお父さんがご健在なのですか,早速呼んでください.危険な状態ですね,僕はすぐに心電図をとりますから」と答えた.
「ダディーじゃあなくて,プリースト(priest)ですよ,つまりお坊さんを呼ぶんですよ!」と頭にきたようにいう.こちらも,アメリカへきて1週間足らず,英語の語感に慣れぬものだから,「なぜお坊さんなど呼ぶんですか,お坊さんがきたって助かりませんよ」といいながら,酸素吸入を2lより4lに増やし,点滴にLevophed®(Norepinephrine)を入れるように指示する.ところが婦長は「はいはい」と生返事をしたかと思うと,「先生は何もわかっていないんだから,あたしゃ,お坊さんを呼びますからね」と部屋からすたすたと出ていってしまった.さて,次なる手はと考えていたら,可愛いいパッツという看護婦が心電計を押して入ってきた.ほどなく5%D/W 500mlにLevophedを2mg混ぜた点滴によりpump failureは徐々に改善され,老婆の血圧は90/mmHgに戻ったので,ナースステーションまで引き揚げ,カルテを書きはじめた.
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