天地人
シーツと風呂敷
天
pp.141
発行日 1978年1月10日
Published Date 1978/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402207723
- 有料閲覧
- 文献概要
外来の患者で,ベッドの上に横になるたびに自分の着ていたシャツをベッドの上に敷くという律気な老人がいた。自分の汗でベッドのシーツを汚してはいけないという公徳心のあふれた行為にみえて,看護婦は感心していたが,そうではあるまい.よほどの潔癖で,むしろ自分の肌を,汚れた外来のシーツから守ったのであろう.
むかし吉原で,不見転で花魁をかった男がいた,それにしてもあまりの御面相に辟易して,その花魁の顔に風呂敷を冠せて一件に及ぼうとした.流石に一寸の虫にも五分の魂で,その花魁が怒り出したという.さて,この男はよほどの粋客であったのだろう.「悪かった.許してくれ」とあっさり謝った揚句,今度は自分の顔に風呂敷を冠せて事をすませたという.
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.