特集 家庭で死を迎える
癌末期の母を家で看とる
江本 愛子
1
1三育学院カレッジ看護学科
pp.592-596
発行日 1979年6月1日
Published Date 1979/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918692
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このまま家にいたい
私が実家の姉から母の具合いが悪化したという知らせを受けたのは,今から6年前の正月の4日のことだった.胃癌が既にリンパ腺にまで転移していて,飲み物すらあまりのどを通らず,下肢の浮腫が目立ってきたので,家の者たちでなんとかして家で世話をしてやりたいのだが,苦痛を楽にしてやれないだろうし,店の仕事もあるので入院させたい,という電話であった.私は早速母が入院できそうな病院に連絡をとり始めた.
ところが,家の者たちが母に入院のことについて話を切り出すと,母は‘私が家にいるとみんなに迷惑だからね’と悲しそうに目を伏せたという.‘迷惑だからではない,病院に行けば今よりもっと楽になれるからよ’とみんながなだめてみたが,母は自分の死期が近いことを悟っているかのように‘このまま家にいたい’と哀願したという知らせを,私はそれからすぐに受けた.
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