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血糖調節におけるグルカゴンの役割
生体において糖代謝が円滑に進行するためには,インスリン(I)とグルカゴン(G)の血中濃度が協調して変動する必要がある.Unger1)によれば,正常人では内因性の血糖生成の必要度が増大するにつれて,I/Gは小さくなる.たとえばブドウ糖の注入時を16.0とすれば,バランスのとれた食事摂取下では3.8,低含水炭素食で1.8,絶食では0.4である。糖尿病では,普通の摂食状況でも絶食に近い代謝パターンをとるところに特徴があり,I/Gは小さくなる傾向を示す.これらの場合,IとGの役割に同じ比重を置くべきか否かについては議論のあるところで,少なくともエネルギー源の供給に関して,ヒトを含む哺乳動物ではインスリンの低下が,鳥類ではグルカゴンが,魚では副腎皮質ホルモンが主導権を握っているといわれている2).
しかし,最近,GH,TSH,インスリンなどの分泌を阻害するsomatostatinが,空腹時のグルカゴンレベルを下げ,アルギニンに対するグルカゴン分泌反応を消滅せしめることが明らかとなり,糖尿病患者における高血糖の維持に対するグルカゴンの役割を客観的に認識することが可能となった3).図1はその実例であり,2時間にわたるsomatostatinの注入により,血漿グルカゴンは150mg/mlより77へ低下し,これにやや遅れて血糖が,260mg/dlより191へ降下している.この血糖降下がGHの動きを介するものでないことは,図1でGHの2時間の動きが軽微なことや,血糖に対する類似の効果が下垂体摘除糖尿病患者でも観察できることから明らかである。somatostatinの血糖に対する効果の程度は,ほぼ空腹時の血漿グルカゴン濃度に比例することが示されており,重症糖尿病でグルカゴンの血中濃度が高い場合は著効を奏すると考えられる.すなわち,重症糖尿病における高血糖の成立に,グルカゴンが一定の役割を演じていることは確実であろう.この意味で,somatostatinが将来糖尿病の臨床にも応用される可能性は少なくない.ただし,投与中止後のreboundに対する対策は充分考慮されるべきであろう.
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