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化学剤の普及と肺結核手術
化学剤の普及は,多くの感染性疾患の治療を容易にしたため,手術の必要性を減じさせた.しかし結核性疾患の場合は,化学剤の出現は,「死の門を開く」といわれた混合感染を防止できるのみでなく,抗結核薬の庇護の下では,肺切除のような直達療法も可能となり,手術の適応が著しく拡げられた.例えば,昭和25年から30年頃にかけて,1000床のわれわれの施設で年間700例程度の肺結核の外科療法が行なわれ,その2/3程度は片肺全切除を含めた切除術であった.しかしその後,抗結核剤の増加や,併用療法など使用方法の向上により,内科的治療のみで治癒に達する場合が多くなり,手術例は次第に減じ,最近では年間70例を越えず,しかも肺切除術後の気管支瘻膿胸例の再手術や,感性の結核薬を使い果たして,止むなく胸成術を行なうような例が相当数を占め,切除術は真に必要と考えられるものに限られる傾向となってきた.新しい抗結核剤の出現していくごとに,この傾向は強まって行くものと考えられる.
しかしながら一方,われわれの施設には,初回治療や再治療に失敗しRFPを含めての総ての抗結核薬を使い果たし,しかも排菌が停止しない患者が100例に近づこうとしている.その排出菌は多剤に高度耐性であるのが普通で,退院不能であるばかりでなく,次第に病巣が拡大して呼吸不全や,大喀血などで不幸な転帰をとるものもあるが,大部分は,新薬の出現に希望を托しながら,10年以上におよぶ療養を続けている.最近結核病棟を閉鎖する施設が増加して,このような状態になった患者の転入が多いので,この種の患者が現在の段階でも増加している.このような同情すべき状態になった患者達の病歴を検討すると,発見や治療の遅れによる者よりも,初回治療に失敗後の薬剤選択の不適正(ことに耐性検査の不十分による)が原因と推定される場合が多い.このようにして,次々と耐性剤を作り,手術の適応の時期を失ってしまった例が大部分である.また,手術を行なってはいるが,範囲が適当でなかったため,残存病巣が後になって悪化した例もある.
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