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どんな目的で?
冠拡張剤はそもそもどんな目的で使われるのだろうかなどと言うと,今さら何を言いだすのかと一笑に付されそうな気もするが,しかし,考えてみるとこの薬ぐらいばくぜんとした効果を期待してただなんとなく使われている薬もめずらしいように思われる.文字どおり解釈すれば,動脈硬化症あるいはその他の原因で狭窄に陥り血流の不全をきたした冠動脈を拡張させ,虚血に陥った心筋に対して再び十分な酸素を供給することを目的とした薬ということになるが,実際に果たして文字どおりそのような目的を達しえているであろうか.それに対する答えは,少なくとも現状では必ずしも確たる証拠を得ているとは思われない.
ラジオアイソトープ(Rubidium84)を用いて,人間における冠血流量を測定したLuebsらの成績1)でも,Nitroglycerin,Intensain,IsoptinおよびPapaverineのいずれもが,冠動脈疾患のない個体においては冠血流量を明らかに増加させるのに対して,冠動脈疾患のある患者においては冠血流の噌加を示さなかったという.また,Xenon133を用いたBernsteinら2)の成績においても,冠動脈直接注入法においてのみニトログリセリンがごく一過性に冠血流量を増加させたが,舌下錠(0.4mg)投与では冠血流量はむしろ減少,冠血管抵抗は不変であったという.むしろ認めるべき成績は.心務酸素消費量および左心仕事量の低下という形で現われており,狭心症に対する治療効果はこのことに由来すると考えられるとしている.
これらの事実は,特に硬化性変化のために内腔D狭窄を生じている状態においては,そう思うとおりに血管が拡張して血流が改善されるわけのものではないことを教えている,ある場合には,われわれの期待とは逆に,正常な血管の流域のみに血流が増加することによって,血液供給の分配がさらにいっそう悪化するかもしれない.われわれが日常ときとして経験する冠拡張剤の投与が逆に狭心症を誘発したり,狭心症症状を悪化させたりするparadoxicalな現象の一部には,このような機転によるものも含まれている疑いも否定できず,したがってその作用機転はきわめて多様性に富んでいることを考慮しなければならない.
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