病歴のとりかた
スプルー性悪性貧血の例
小宮 悦造
1
1熊大内科
pp.1022-1025
発行日 1968年8月10日
Published Date 1968/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402202348
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
過般Medicinaから,筆者の50年の臨床経験の中で最も印象的な症例の提示を所望されたので,この例を選んだ.当時はまだ骨髄穿刺も現在ほど普及しておらず,悪性貧血に対する肝臓療法も現在ほど発展していなかったし,それにスプルーは日本にあるかないか判然しなかった時代であった.それを的確に診断し,自家製の肝臓末を与えて驚嘆に値する効果を得た点,真に印象的である.一度雑誌に報告したものであるが,現在でも十分価値ある症例と信ずるので,ご所望に応じて提供する.
スプルーとは主としてインド,マレー,東インド,フィリッピンなどに分布する熱帯風土病の1つで,主要症候として慢性の脂肪下痢,羸痩および貧血をみるとされている.わが国で報告されたものは服部の数例と小松の1例がある.服部の例は記載がすこぶる簡単で明らかでないが,小松の例では,脂肪下痢,羸痩,胃腸障害などの症状を具備していたように報告されている.血液所見をみるに,軽度の色素指数上昇性貧血で,プライス・ジョーンス曲線は右偏していたが,巨赤芽球あるいは巨赤血球は欠如していたと記載されている.すなわちスプルー自体がわが国ではまれで,これによる悪性貧血は報告されておらぬ.
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.