連載 患者さんは人生の先生・6
誠意は通ず
出雲 博子
1
1聖路加国際病院内分泌代謝科
pp.1135
発行日 2014年6月10日
Published Date 2014/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402107621
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35年前、私が大学病院で内科研修医をしていた頃のことである。60歳くらいの男性が早期胃癌で手術を受け、その後、私の指導医が、主治医として内視鏡にて経過観察していた。ある日、前回の検査では異常がみられなかったのに進行癌がみつかった。しかし、もう一度前回の内視鏡検査結果をよくみてみると、すでに癌の再発の兆しがみつかっていた。私は大変なことだと思った。その指導医は悩んでいたが、患者さんとその妻に本当のこと、すなわち前回の検査ですでに再発の所見があったが見過ごしていたことを正直に話し詫びた。手術が施行されたが、すでに周囲にも浸潤しており患者さんは数カ月後に亡くなった。その指導医は、葬儀にも出席して真摯に詫びた。
妻は新聞社に勤めるジャーナリストであったこともあり、私はどうなるのかなと思っていた。ところが、妻は主治医に言った。「先生はいつも、誠実に一生懸命主人を診てくださいました。先生は神様ではないのだから見逃すこともあるのは仕方ないことです。これが主人の寿命だったのだと思います。ありがとうございました」私は、研修医としてさまざまな知識や技術を学んだが、しかし、それ以上のものをこのことから学んだ。
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