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平成16(2004) 年度から導入される新医師臨床研修制度には,3つの基本的考え方が示されています.①医師としての人格の涵養,②プライマリ・ケアへの理解を高め,患者を全人的に診ることができる基本的臨床能力の習得,③アルバイトをせずに研修に専念できる環境の整備,という3点です.1点目は当然のことですし,3点目は今回の新しい制度の成否を決める前提条件です.2点目については,現行制度下での現状をふまえれば,現時点では妥当な結論だろうと思います.現行制度は,3ない(医師でも学生でもなく身分の保証がない,経済的な保障もなく,さらに,研修に必要な指導体制もない)制度と呼ばれ,一連の学生運動の発端ともなったインターン制度の改正案として導入された制度です.しかし,インターン制度は廃止されたものの,そのために必要な卒前教育や医師免許取得後の研修体制は当初から全く不十分で,なのに,アルバイトは可能という,むしろ卒後初期研修にとっては欠陥の多い制度でした.さらに,これらの欠点を運用面で補うことも,結果的には不調に終わったということです.
米国の卒後研修制度は,当時,卒前での基本的臨床能力の習得を前提に,それまでのスーパーローテーション方式から,内科,外科などの専門研修へと移行した時期でした.米国で30年以上前にすでに取りやめた制度を,日本ではこれから開始するということになります.この大変な違いは,社会制度,医療制度,そして医学教育制度などの差異によるものでしょう.制度を単に形だけ移入し,その背景への理解と対応の不十分さが,「失われた36年間」といわれる付けを回すことになったように思います.同じ過ちを繰り返さないことです.
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