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空の輝きの一部は家々の灯りである
山本 和利
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1札幌医科大学医学部地域医療総合医学講座
pp.248
発行日 2003年11月30日
Published Date 2003/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402107420
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私が医師6年目に赴任した人口6,000人の山間の町は南北に長く,北の3村と南の1町が合併して町を形作っていた.北から天竜川が流れ町の途中から一方は浜松へ,もう一方は豊橋へと分かれていた.赴任した病院は3つの村のやや南に位置し,豊橋へ向かう川沿にあった.医療施設としてこのほかに,町が有床診療所と無床診療所を抱え,耳鼻科の開業医が一人いた.赴任後,病院で待っていても患者は一向に集まって来なかった.病院といっても医師が少ないため当直体制が取れず,宅直制であった.夜間に電話で呼ばれると病院に出向いた.
ある夜,発熱がひどいので往診してほしいという依頼があった.これまで発熱くらいで往診をしたことはなかった.病院に行きたくとも車がないというので運転手と看護師と私の3人で出向くことにした.15分ほど車で行くと道が途切れた.往診鞄と太い竹竿を運転手が往診車から取り出してきた.竹竿に往診鞄を吊して私が前で運転手が後を担いで30度はあると思われる坂道を登った.これがこの町での往診スタイルだった.15分経っても着かなかった.家の灯りが見えた頃には全身汗でビッショリだった.患者さんを診ようとすると冷たい飲み水とおしぼりが出された.10分ほど家の方と話をしてから患者さんを診察した.高齢の婦人であった.かぜと診断した.事前に用意してきた薬を飲むように指示した.帰り道,空を見上げると星に手が届きそうだった.
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