column
患者の命をつなぐ往診
山本 和利
1
1札幌医科大学医学部地域医療総合医学講座
pp.267
発行日 2003年11月30日
Published Date 2003/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402102454
- 有料閲覧
- 文献概要
2年前から寝たきりとなり定期往診されていた83歳女性を前任者から引き継ぎ,段々畑の間の坂道を往診かばんを下げて通った.寝たままの患者を運び出すには多大な労力が必要であったため,少々の病状変化では在宅でするしかなかった.しかし1年ほど通った頃,発熱,全身衰弱が強くなり,独身で面倒をみている息子を説得して,町の消防団員を頼んでタンカで下ろし入院させた.胸部X線写真で肺に異常影があることがわかり,肺結核と判明して療養所へ転院となった.その後,しばらくして死亡したという連絡が届いた.町では搬送の方法が問題になるなど考えられないことであろう.できることなら便利なところへ移りたいと思っていたのか,たとえここで朽ち果てようともここに居たいと思っていたのか,この患者さん本人の本当の気持ちは知るよしもないが,このようにして過疎地に生きる人々は,現実にたくさんいる.
心不全で往診対応した85歳男性.夫人も息子夫婦とも一家4人が私の患者だった.入院するのを嫌がるため往診に山頂の家まで通った.車で20分山道を登って,道が途切れたところで車を降りた.荷物運搬用のレールは引かれていたが,人間は乗せてもらえず,毎回だらだらと20分歩いて登った.10kg近くある往診かばんを持つのは看護師の役目であるが,それを持ってあげると看護師に喜ばれた.陰囊水腫があることがわかり,毎回陰囊穿刺をして排液した.時には家族の薬を届ける役目も果たした.このような往診が任期中続いた.私が任地を離れても,そのような往診は今も続けられている.過疎地では往診が患者の命をつないでいる.
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.