書評
―村川裕二 著―循環器治療薬ファイル―薬物治療のセンスを身につける 第2版
佐々木 達哉
1
1独立行政法人国立病院機構大阪南医療センター循環器疾患センター
pp.1029
発行日 2012年6月10日
Published Date 2012/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402106017
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世に氾濫するマニュアル本,ガイド本がいかに味気ないかということ,実際に患者を目の前にしたときにはそれほど役に立たないことなど,臨床の前線にいる医師はうすうす感じてはいるが,それをけして声に出せないような雰囲気が現在の本邦の医療界にある.しかし,本音で語られた言葉を聞くのがいかに心地よいものか,この書物は明確に示してくれる.
マニュアルやガイドラインはある一定の水準を維持するには有用であるが,それらの記述に魅力を感じないのは何故であろうか? そもそも人を魅了するものは何か? 例えば精緻なシンメトリックな造形は一見すれば美しく見えるが,魅了されるものではない.それは,あまりにも「個」を排した姿勢に見る側が感情移入をできないためであろう.意図しない非対称のなかに美を見出すのは,古来日本の美意識ではなかったであろうか.それが個性というものであろう.元来,個性が発揮されるのは一人の人間の内なる経験が一つの完結した形に結晶することが前提なので,一つの作品が個性をもち,人を魅了するには合作であってはならないのである.そうでなければその造形は見る人を魅了できまい.シンメトリックな美は模倣され大量生産されるが,個性は模倣できないものである.
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