連載 当事者に聞く 自立生活という暮らしのかたち・第2回
ケーキ出前という発信がある―実方裕二さんの場合
河本 のぞみ
Nozomi KAWAMOTO
pp.1047-1052
発行日 2013年8月15日
Published Date 2013/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001100251
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脳性麻痺者からの発信
今回の舞台は,東京・世田谷区である.一人暮らし32年,20歳ころから家を出ている筋金入りの自立生活者,言葉でつくる料理人ともいわれている実方裕二さんの暮らしだ.
スウェーデン製の高速度電動車いすに「ただいま車椅子で販売中!」と書かれたシフォンケーキの看板をくくりつけ(車椅子で,って書かなくても一目瞭然なのだけれど),三軒茶屋の路地から下北沢までも,さらに電車に乗って新宿までも,本当にかっ飛ばすのだ.白状すると,私は彼の車いす移動を甘くみていた.「取材で,電車で出かけるときに同行させてください.何とかついていきます」と言ったとき,「疲れちゃうと思うな」と彼の目の奥がニヤッとしたような気がしたのだけれど.その日,最初は彼は私に合わせて速度を落としてくれていた.だが小雨が降ってきて下北沢駅に駆け込むはめになったとき,スピードを上げた彼に小走りでついていった私は完全に息が上がっていた.なんだろう.健常者に属する私は,何の根拠もなく,障害者の移動は自分よりも不自由だと思っているのだ.このままでは,私は裕二さんの足手まといになることがわかったので,その後は彼についていくときは自転車を借りたり,私だけタクシーを使うことにした.
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