書評
―岩田健太郎・土井朝子 監訳―トラベル・アンド・トロピカル・メディシン・マニュアル
大曲 貴夫
1
1国立国際医療研究センター国際疾病センター/感染症内科
pp.1017
発行日 2012年6月10日
Published Date 2012/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402106016
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海外に向かう人々は年々増えている.海外への旅行は楽しみなものである.初めての土地での新たなる体験を想像するだけで心が躍ってくる.しかし,不安もなくはない.それはいわゆる時差ぼけに始まり,高所であれば高山病であり,熱帯に行くとなれば熱帯病も気になる.旅行に行くからには健康の問題に煩わされることなく楽しく過ごしたいものである.海外に向かう人々の質も以前とは異なってきている.まず高齢者の海外渡航が増えている.高齢者であるということは,基礎疾患をもっている可能性が高い.そのような方々が海外に行くわけである.近年は医療も高度化し,免疫抑制薬や生物製剤を用いられる影響で,免疫不全を抱えた患者が増えている.このような患者のすべてが海外旅行を忌避するわけではない.実際には免疫不全を抱える患者も多く海外に渡航している.よって,単に海外渡航者が増えているばかりでなく,そのなかには感染などの健康リスクの高い患者も一定数含まれている.
これらの患者の健康管理にあたるのは誰か.すでに健康の問題を抱える患者にとって,最も相談しやすい相手は,遠くの施設にいる旅行医学を専門とする医師ではなく,かかりつけの医師であろう.つまり普段から患者の高血圧や,糖尿病や,リウマチといった疾患を診ている医師こそがこのリスク管理を依頼される可能性があるわけだ.「専門外」といって避けては通れない時代になってきている.
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