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腹部外傷においては,特に出血性ショックなどの循環動態不安定な患者では致死的となりうる腹腔内出血を迅速に検出し,タイミングを逸することなく早期開腹術などにより根本的止血を施し救命することが最も重要である.このような状況下で,循環動態管理を含む救命処置と並行してベッドサイドで遂行できるエコー検査は,迅速性・簡便性・無侵襲性・易反復性の点において非常に有効である.腹腔内出血を迅速に検出する目的から,FAST(focused assessment with sonography for trauma)と呼ばれるエコー検査手法が推奨されている.これは決められた4カ所のP領域(pericardial, perihepatic, perisplenic, pelvic)を最低限エコーで検索することにより,腹腔内出血だけでなく心タンポナーデ,血胸の有無を迅速かつ簡便に検出しようとする方法である(図1)1).実際には心窩部,右横隔膜下腔,肝周囲,Morison窩,右傍結腸溝,左横隔膜下腔,脾臓周囲,左傍結腸溝,そしてDouglas窩の順で検索を行う.出血は最少100mlの貯留で同定可能であり,エコー所見は通常無エコー領域として認められるが,経時的に凝血を生じると,索状,網目状の内部エコーを伴ってくる.出血量推定法は,前述の検索部位における出血の有無や右横隔膜下の液体の厚みでもって出血量を推定する松本らの報告(表1)2)をはじめ,いくつかの方法がある.受傷直後は腹腔内出血がみられないか,あるいは少量で循環動態が安定している患者において,これらの推定方法を用いて繰り返し出血量の評価を行うことで,今後の治療方針の判断材料の一つとして活用することが可能である.女性における生理的な腹水,腹腔内癒着による不均一な血液分布,腹腔内膀胱破裂による尿漏出は,正確な腹腔内出血の評価を誤る可能性があり注意が必要である.
本稿では,腹部外傷におけるエコーの最重要課題を腹腔内出血の評価であるとの観点から,これに絞って記述を行った.
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