連載 海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・6
公衆衛生の立場からの医師の違法行為の取締り
ホスラー 晃子
1,2
Akiko S. Hosler
1,2
1ニューヨーク州保健省慢性病疫学課
2ニューヨーク州立大学公衆衛生大学院
pp.435-437
発行日 2000年6月15日
Published Date 2000/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902316
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
昨年秋,ニューヨーク市内の病院で帝王切開出産をした31歳の女性は,「出産後麻酔で意識が朦朧としていた時に,執刀医であったアラン・ザーキン医師によってAとZの文字(彼のイニシャル)をメスで腹部に彫り刻まれ,取り返しのつかない肉体的,精神的な傷を負わされた」として損害賠償を求める民事訴訟を起こした.今年1月に行われた裁判で,ザーキン医師は原告の訴えをほぼ全面的に認め,賠償金の支払いに応じた.この結果,ニューヨーク州保健省は直ちにザーキン医師に医療活動の停止を命令,後の審議で医師免許の最終処分を決定することを言い渡した.ザーキン医師は1966年にニューヨーク州の医師免許を獲得しているベテランの産婦人科医ではあるが,彼はこの件の他にも患者に暴言を吐く,患者の適切な治療を怠る,といった行為で同時に訴えられており,またザーキン医師が医師長を務めていた別の病院も,医療器具の不備,衛生管理の不徹底と慢性的な人員不足のため,保健省の監視下にあったことが明らかにされた.ザーキン医師の弁護側は,こうした行為は近年悪化した脳神経系の障害によるものとしているが,理由はどうであれ,彼の被害にあった患者はまだかなりいるものと予想されている.
この一件はその特異性からマスコミを騒がす結果となったが,医師を巻き込んだ裁判沙汰はアメリカでは日常茶飯事である.
Copyright © 2000, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.