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故人になられましたが、映画評論家の淀川長治氏は、「映画は『愛』を描いている」とおっしゃっていました。やはり故人になられましたが、同じく映画評論家の水野晴郎氏は、「映画はミステリーだ」とおっしゃっていました。いずれも、映画の本質を端的に言い表している言葉だと思います。中には、とても愛を描いているとは言いがたい映画や、ミステリー性が薄い映画もありますが、映画というものは、作品の根底に「愛」がなければ、薄っぺらなものになってしまうでしょうし、ミステリー性がなければ、ワクワクして見る楽しみがなくなってしまいます。今月ご紹介する「最後の乗客」は、「愛」にあふれた、ミステリアスな映画です。
舞台は東北、駅前のロータリーで客待ちをしているタクシーから映画は始まります。駅名は明示されていませんが、資料によればロケが行われたのは仙台市の地下鉄東西線の荒井駅とのことです。駅舎は近代的ですが、映画の中では乗降客が少なく、タクシー利用客はあまりいません。タクシードライバーの遠藤(冨家ノリマサ)は、同僚のたけちゃん(谷田真吾)と、客待ちしながら、最近タクシードライバーの間でうわさになっている話をしています。夜遅く街道を流していると、若い女性がポツンと立っていて……。よくある怪談話を想起させます。遠藤は、たけちゃんの話を一笑に付します。遠藤は次の電車の到着を待ちますが、結局利用者はおらず、街道方面を流して客を探し始めます。人気のない街道脇に、帽子を目深にかぶり、夜にもかかわらずサングラスを掛け、マスクをした若い女性がタクシーを止めようと手を挙げる姿をヘッドライトが照らしだします。乗り込んだ女性は、海岸方面へ、と目的地を告げます。まるで、先ほどたけちゃんが話したうわさ話が現実になったような感覚を覚えながらも、タクシーは海岸方面に向かいますが、突然、タクシーの前に、小さな女の子と母親の二人連れが飛びだしてきて……。
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