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はじめに
摂食障害の病因は,いまだ未解明である.生物学的仮説(遺伝的側面,セロトニン仮説-強迫スペクトラム障害仮説,ノルアドレナリン・ドーパミン・サイトカイン・アディポサイトカイン仮説などを含む神経伝達物質仮説,認知機能仮説),症候論的仮説(気分障害,強迫スペクトラム仮説など),心理社会的仮説(痩せ礼賛文化,力動的理解など)など種々の仮説が出されてきた1).しかし,どれも決定打ではなく,治療に直結するものでもない.例えば,症候論的仮説,併存症研究から生まれた気分障害スペクトラム仮説や強迫スペクトラム障害仮説の最も大きな弱点は,大うつ病性障害や強迫性障害の第一選択であるSSRI(selective serotonin reuptake inhibitors.わが国で上市されているのはフルボキサミン,パロキセチン,セルトラリン,エスシタロプラムの4種)の摂食障害に対する効果が限定的であり,FDA(Food and Drug Administration)が承認しているのは,神経性過食症に対するフルオキセチンだけである.事実,欧米の摂食障害ガイドラインでは,薬物療法は精神療法ができない特殊な状況でのみ許されている.精神科以外の医療関係者には理解しにくいであろうが,現在の精神科診断は病因論を排した操作的診断基準であり,治療に直結しない.そこで,より治療的な視点が必要とされるのである.
摂食障害に相当の割合で社交不安障害の併存が認められ,さらに社交不安障害発症が先行していることが分かっており,社交不安障害からの視点による摂食障害治療の有効性が示されている2).摂食障害全体をカバーする病因論ではなく,治療的視点から摂食障害の一部を理解しようとするものである.
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