特集 地方自治体と公衆衛生—総合性と専門性の確保
公衆衛生における地方自治・分権の軌跡と展望
斎藤 誠
1
1東京大学大学院法学政治学研究科
pp.266-273
発行日 2018年4月15日
Published Date 2018/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208865
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はじめに
日本国憲法における地方自治の章(第8章,92〜95条)に対応して,地方自治法が制定されたのが1947年であるから,同法もすでに古希を越えたことになる.憲法制定後の地方自治・分権の展開の中で,公衆衛生分野がどのように位置付けられてきたのかを回顧し,そして,特に専門性と総合性という観点から,地方自治体の担う公衆衛生行政の今後を展望するのが本稿に課せられた課題である.
あらかじめ,著述の視点について一言しておけば,筆者は一方で地方自治の法的基礎理論の研究を行い,他方で2006年以来の第二次地方分権改革の具体的作業にも参画した.本稿では,基礎研究の一環として,公衆衛生分野における歴史の展開を読み解くとともに,第一次地方分権改革後の動向については,自らも関与した法政策論を検証しなければならない.後者については,その経過や位置付けについては,できるだけ客観的な記述を心掛けたうえで,自らの見解は見解として明示したい.
地方自治制度と,それを支える考え方については,第二次世界大戦前と戦後では大きな断絶がある.例えば,明治憲法には地方自治に関する条項はなく,戦前には首長直接公選制度も存在しなかった.しかし,戦前・戦後の連続面にも十分に留意しなければならない.公衆衛生行政についても同様である.まずは,戦前期の地方自治と公衆衛生行政・保健所の関係について振り返る.
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