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はじめに
2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災,そして,それに引き続き起こった東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,福島原発事故)から早6年が経過し,7年目になろうとしている.東日本大震災時に生まれた赤ちゃんが,小学校に入学する,という期間と考えれば,その時間は決して短くない.しかし,筆者にはこの6年,目まぐるしい状況の変化の中で,自らも悪戦苦闘してきており,あっという間に感じるというのが実感である.
本誌では,東日本大震災発生の2011年11月には,特集「放射線と向き合う」が企画された.公衆衛生関連の雑誌で,放射線を特集したものとしては,かなり早い時期であり,阿彦忠之編集委員他に敬意を表したい.当時,福島原発事故は,“放射線”のみが注目され,その他の健康問題はほとんど着目されなかった.さらに翌年12月には,特集「原子力災害と公衆衛生」が組まれた.高鳥毛敏雄編集委員があとがきで「原発災害の見えない部分を全国に発信していただきたいと,この間考えてきました」と書いているが,福島での問題は“放射線”だけではなく,“見えない部分”が大変多く,そこに問題がある,ということを見抜いた企画であると,その慧眼に頭が下がる.
毎年3月11日が近づくと,“震災後○年目”と銘打った企画・報道が雑誌,新聞,テレビ等で見られるが,その後は,潮が引くように企画・報道は激減するのが実態である.特に,昨年,2016(平成28)年4月に発生した熊本地震やその後東北・北海道を襲った台風等次々に災害が起こったため,東日本大震災,福島原発事故の報道される回数・量が著しく減少している.報道の回数・量の減少は,人々に,“何も起こっていない=問題はない”との認識を結果的に与えてしまっている可能性がある.今回,改めて本特集が組まれた意義は極めて大きいと考える.その理由は,東日本大震災,そして,福島原発事故の風化である.復旧・復興が劇的に進展しているのでもなく,遅々として進まぬ復旧・復興の中で,人々の健康課題は多岐にわたり存在し,公衆衛生関係者の役割はさらに大きくなっている.
ここでは,避難指示解除時期までの公衆衛生の課題の変遷と展望について求められているが,解除時期が市町村,地区によって異なる状況で,課題や展望も異なり,一概に言うことはできない.また,もとより,全体を網羅することは浅学菲才の筆者には不可能であり,その点はご容赦いただきたい.
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