特集 人に死を招く動物—人・昆虫・寄生虫
吸血性サシガメ—シャーガス病(アメリカトリパノソーマ症)
三浦 左千夫
1,2
1NPO法人MAIKEN
2ブラジル領事館医療相談室・シャーガス病対策
pp.135-139
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208609
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1907年ブラジル連邦共和国オズワルド・クルズ研究所の所長オズワルド・クルズの命により,カルロス・シャーガス医師がマラリア対策のためにブラジル中央部に派遣された際に,現地住民から,マラリアよりもさらに恐ろしい血液を吸いに来る昆虫Kissing bug(サシガメ)の話を聞いた.中南米ではVinchuca,Chinches,Chipo,Pito,Barbeiro,Chichaguazuと国によっていろいろな呼び方があり必ずしも同一のものではないがシャーガス病の病原体Trypanosoma cruzi[T. cruzi]を媒介する.ブラジルでは1909年に発熱,貧血,浮腫などの臨床症状を持った2歳の幼児Bereniceの血液中にT. cruziが存在することを発見,報告し,これをシャーガス病と命名した1).
1950年にはサンパウロの西430kmに位置するマリリアという田舎町に住んでいた日本移民Yさん母子が,発熱,衰弱が激しく共にシャーガス病の急性期と診断された.生後11カ月の乳児の血液から分離培養維持されたT. cruzi虫体が紛れもないT. cruzi Y株であり今日でも広く研究分野で活用されている.原虫を提供してくれた乳児Yさんは治療後23歳で結婚,この時期に再度血液培養を行ったが,虫体は分離できなかったとの報告がある2).この例の如くシャーガス病は日系移民の歴史と共にあったのである.
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