特集 人に死を招く動物—人・昆虫・寄生虫
淡水産巻貝—住血吸虫症
大前 比呂思
1,2
1国立感染症研究所
2WHO西太平洋地域
pp.141-146
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208611
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
住血吸虫症の疫学と淡水産巻貝のリスク
淡水産巻貝から感染する住血吸虫症は,世界的には総感染者数2億と推定され,その対策は公衆衛生上重要な課題である1).主なヒトへの寄生種として5種が知られ,感染者数は,マンソン住血吸虫:Schistosoma mansoni,ビルハルツ住血吸虫:S. haematobium,日本住血吸虫:S. japonicumの順に多い.S. intercalatunやS. mekongiの浸淫地は限られている.
肝障害が主な病変となる住血吸虫のうち,マンソン住血吸虫は,アフリカ大陸や中近東,ブラジルを中心に南米の東部やカリブ海諸国を含む中米の一部に分布する.また,アフリカには,カメルーン・コンゴといった西部赤道アフリカの一部に,S. intercalatumが分布する.アジアでは,日本住血吸虫が,揚子江流域を中心とした中国,太平洋岸を中心にフィリピン各地,インドネシアのスラウェシ島の一部に分布するが,メコン住血吸虫の分布は,ラオス・カンボジア国境付近のメコン河中流域に限られる.また,泌尿器系障害が病変の中心となるビルハルツ住血吸虫は,アフリカ大陸や中近東に分布し,マンソン住血吸虫の分布域と重なるところもある.日本国内にも,甲府盆地・筑後川流域・利根川中流域・広島県片山地方など,かつて日本住血吸虫症が発生していた地域があるが,1977年以降,国内での新感染例は報告されず,現在問題の中心は輸入例へと移っている2,3).
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.