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はじめに
1907年ブラジル連邦共和国オズワルド・クルズ研究所の所長オズワルド・クルズの命により,カルロス・シャーガス医師がマラリア対策のためにブラジル中央部,ミナスジェライス州北部に派遣された際に,現地住民から,マラリアよりもさらに恐ろしい血液を吸いに来る昆虫Kissing bug(サシガメ)の話を聞いた.その昆虫を捕まえて調べてみると腸内に鞭毛虫を見出した.恩師の名をとりTrypanosoma cruzi(T. cruzi,クルーズ・トリパノソーマ)と命名し,さらに1909年に同一地域で発熱,貧血,浮腫などの臨床症状をもった2歳の幼児の血液中にT. cruziが存在することを報告し,シャーガス病と命名した1).
1950年にサンパウロの西430kmに位置するマリリアという田舎町に住んでいた日本移民Yさん母子が,発熱,衰弱が激しく首都サンパウロの大学病院へと運ばれ,ともにシャーガス病の急性期と診断された.生後11カ月の乳児の血液から分離培養維持されたT. cruzi虫体が紛れもないT. cruzi Y株であり今日でも広く研究分野で活用されている.原虫を提供してくれた乳児Yさんは治療後23歳で結婚,この時期に再度血液培養を行ったが,虫体は分離できなかったとの報告がある2).この例のごとくシャーガス病は日系移民の歴史とともにあったのである.
1990年以降ラテンアメリカ移民2〜4世が労働力として祖国日本へと出戻り移民の現象が起こり,今日でも27万人近くの在日ラテンアメリカ人(含む日系)が定住している.そのなかにはシャーガス病感染者が数多く潜在し発病,そして医療介護を受けている者もいる.またなかには善意の献血に協力していた者にも感染者が存在した.幸いに輸血による二次感染は否定されたが,このような事象はほかにも多数あっても不思議ではない.一方,中南米〜南米の流行地では経口感染による急性シャーガス病の報告も散見されている3,4,5).
わが国でのシャーガス病に関してはほとんどの医家が経験のない疾患でありその対応に苦慮するところであろう.
ここに,わが国でのシャーガス病に対する対応についての背景および症例について示すことで,今後,数ある心疾患の鑑別診断上参考になればと検査経過とともに記す.
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