書籍紹介
『失われてゆく,我々の内なる細菌』—マーティン・J・ブレイザー 著 山本太郎 訳 みすず書房 2015年
pp.256
発行日 2016年4月15日
Published Date 2016/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208400
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19世紀に始まる細菌学によって,人類は微生物が病原になりうることを知った.そしてカビに殺菌力が見出される.抗生物質の発見である.以来この薬は無数の命を救う一方,「念のため」「一応」と過剰使用されてきた.これは,抗生物質は仮に治療に役立たなくても「害」は及ぼさない,という前提に基づいている.しかし,それが間違いだとしたらどうなのか——.
人体にはヒト細胞の3倍以上に相当する100兆個もの細菌が常在している.つまり我々を構成する細胞の70-90%がヒトに由来しない.こうした細菌は地球上の微生物の無作為集合体ではなく,ヒトと共進化してきた独自の群れであり,我々の生存に不可欠だ.構成は3歳くらいまでにほぼ決まり,指紋のように個々人で異なる.その最も重要な役割は先天性,後天性に次ぐ第三の免疫である.しかしこの〈我々の内なる細菌〉は抗生剤の導入以来,攪乱され続けてきた.帝王切開も,母親から細菌を受け継ぐ機会を奪う.その結果生じる健康問題や,薬剤耐性がもたらす「害」の深刻さに,我々は今ようやく気づきつつある.
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