「公衆衛生」書評
—谷口清州 監修 吉田眞紀子・堀 成美 編—アウトブレイクに対処する人に役立つ,類書のない良書『感染症疫学ハンドブック』
井上 栄
1
1元国立感染研感染症情報センター
pp.280
発行日 2016年4月15日
Published Date 2016/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208406
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本書は,突発的な健康被害(アウトブレイク)が発生したとき迅速に現場へ行き実施する疫学調査の実際と,サーベイランスの仕組みなどを扱っている.症例定義から始まる記述疫学,立てた仮説を検証する分析疫学の手法(後ろ向きコホート研究と症例対照研究)がわかりやすく書かれている.調査結果をいかにプレゼンするかのノウハウもある.昔とは異なる発生パターンで感染症が起こる現代,それに対処する人に役立つ,類書のない良書だ.執筆者17人全員が,国立感染症研究所(感染研)の実地疫学専門家養成コース(FETP-J:Field Epidemiology Training Program)の関係者(コース修了者が多数)である.
上記事業が1998年から始まったのは,1996年の堺市O157事件が契機になっている.当時の予防衛生研究所(現・感染研)には,現場で調査を行う疫学専門家がいなかった.混乱している現場で的確な調査をしてアウトブレイクの全体像を把握し,適切な病原体材料採取の指示をするのは,病原体専門家でなく訓練を受けた疫学専門家である.病原体確定には時間がかかるので,確定前に病原体伝播様式を推定し,流行拡大を防ぐ措置を執らねばならない.十九世紀半ば,細菌学の誕生前,英国人ジョン・スノウ〔疫学(Epidemiology)の創始者〕は,コレラepidemicの際,病気の伝播様式を推定し流行拡大阻止に役立てたのであった.
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