特集 先端科学技術と公衆衛生
先端科学技術の可能性
竹内 啓
1,2
Kei TAKEUCHI
1,2
1東京大学経済学部
2東京大学先端科学技術研究センター
pp.800-804
発行日 1989年12月15日
Published Date 1989/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208070
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先端科学技術という言葉が最近いろいろなところで用いられている.それは単純に解釈すれば,時代の先端をいくような最新の技術を意味すると考えられるが,しかし最近この言葉はもう少し違った意味で用いられている.すなわち1970年代から始まり,1980年代になって広く各分野に応用されるようになったME技術を基礎とする情報技術,遺伝子工学を基礎とするバイオ技術,あるいはニューセラミックスを中心とする新素材技術などが,一括して先端技術と呼ばれることが多い.それは1960年代までの科学技術の中心であり,技術革新の中核をなした金属工業,石油化学工業,機械工業等の技術とは,本質的に異なった性格を持っている.その違いは一言で旧来の「重厚長大」技術に対する「軽薄短小」技術といわれている.もちろん先端科学技術は極めて高度な技術であって,決して手軽なものではないが,スーパーコンピュータといわれるものにしても,その物理的なサイズは極めて小さなものであって,微細な部分に極めて濃密な情報が埋めこまれている.簡単にいえば在来の技術が規模が大きく,巨大な設備を用い,大量の製品を生産するものであるのに対して,先端技術は小さいものの中に濃密で繊細な構造を持ち,生み出されるものも小さいもの,あるいは無形のものである.
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